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台湾が決断しなければいけないこと

台湾が決断しなければいけないこと

「え?台湾って、台湾って言う国でしょ?」

おそらく、かなりの数の日本人の皆さまはこのような認識かも知れません。この認識は実質的には正解ですが、国交上、あるいは世界の中での認識としては不正解です。実際に日本政府は台湾を国家としては認めておらず、中華人民共和国の一部と言う扱いにしています。ですので、日本と台湾の間には正式な国交がありません。これだけ身近で親日的な国であるにも関わらずです。これには、台湾がたどって来た苦難と挑戦の歴史が大きく関係しています。

<中華民国(台湾)と中華人民共和国(中国)の国旗>

台湾の正式な国家名は未だに「中華民国」(Republic of China)であり、「中華人民共和国」(People’s Republic of China)と内戦状態にある国、つまり中国が2つに分かれている状態であると表現するのが最も正確でしょう。台湾が戦時中は日本の統治下にあったのはご存知の通りですが、日本の敗戦によって台湾は中国に返還されることとなりました。その第二次世界大戦の後も中国では共産党と国民党の内戦が続きましたが、結果として中国大陸では毛沢東率いる共産党が勝利し、中華人民共和国が建国されました。破れた蒋介石率いる国民党は台湾へ逃れ、そこで建国されたのが中華民国(台湾)です。そして内戦が収まった後も、両政府は自らが正統な中国政府であると主張し続けました。中華人民共和国は共産主義国家であったため、当初西側のアメリカを始めとする自由主義陣営は中華民国と国交を樹立しましたが、次第に大陸を実際に統治する巨大な中華人民共和国との国交を結ぶ国が現れ始め、ついに1972年にはアメリカのニクソン大統領が中華人民共和国を訪問し、中華人民共和国を唯一の中国の正統な政府として認め台湾はその一部であるとする「一つの中国」論が世界の主流となってしまったのです。その流れに日本政府も逆らい続けることができず、同1972年に日本政府も中華人民共和国を中国の正統な政府として認めると同時に、その一部である中華民国政府とは断交を余儀なくされることとなりました。2017年時点で世界で台湾を国家として承認している国はわずか20か国ほどであり、そのほとんどが南太平洋やアフリカ、中米の小国ばかりです。近年では中国政府がマネーパワーを絡めてこれらの国への圧力を強めており、最近ではパナマがついに台湾との断交に至りました。

では台湾は本当にこのまま中国の一部になってしまうのかと言うと、可能性はゼロではありませんが、すぐにそのような事態になる可能性もまた低いと言えます。その最大の理由はやはりアメリカで、台湾と中国は1つの国であるとしながらも実質的にアメリカと台湾は同盟関係にあり、アメリカが背後で守っているため中国も手を出せずにいるというある種のにらみ合いの状態が続いているからです。アメリカには「台湾関係法」と言う法律が存在し、もし中国が台湾に侵攻した場合はアメリカは台湾を守ることがアメリカの国内法で定められているのです。アメリカにとって台湾は日本と一体となって中国の海洋進出を防ぐための重要な要衝であり、日本~台湾で形成される防壁(第一列島線と呼ばれます)はアメリカが絶対に譲れない防衛ラインになっています。米軍基地が沖縄に集中しているのもこの点が大きく関係していて、その理由は日本・韓国・台湾と言うアメリカの同盟国を守るためにその中間に位置する沖縄に基地を置くのが最も理想的だからです。よく「日本政府も米国政府も沖縄をないがしろにしている」と主張している人がいますが、この主張は本質的な事実が全く抜け落ちている見当違いのものです。どちらの政府も沖縄に負担を押し付けたくてそうしているのではなく、このような国際関係と安全保障上の理由で「そうならざるを得ない」と言うのが正解です。ですが、もちろんそれを口実にして沖縄の人々に過剰な負担を掛けるのは間違っています。少しでも沖縄の人々の負担が軽くなるよう、日本政府には最大限の改善策を実行して行く義務があります。

<東アジアの地図。沖縄は米国にとって戦略上非常に重要な位置にある>

話がだいぶそれましたが、台湾に話を戻したいと思います。台湾人と中国人は同じ漢民族ですが、そのたどって来た歴史と築いて来た文化や国民性は全く異なるもので、もはや同じ民族とは呼べないものです。台湾には選挙があり民主主義が根付いており、自由主義社会の中で経済を力強く発展させて来ました。年配の人には日本の教育で育った方も多く、その影響かどうかは分かりませんが、礼儀正しく、親切で暖かく、勤勉で、人懐っこく優しい性格の人が多く、何より世界一の親日国です。台湾に行けば英語よりも日本語が通じ、日本の文化や食べ物、お馴染みの商品やお店があふれていて、日本人だと言うだけで親切にされます。日本に旅行する人や日本語を勉強する人も多く、正に日本の親友と呼ぶべき人々です。僕も数多くの台湾人の友人がいますが、みんな良い人間ばかりでいつも最大限におもてなしをしてくれます。本当に愛すべき人々です。

<いつも暖かく迎えてくれる台湾の友人たち。怪我をしたら車椅子を押してくれ、自宅に泊めてもらった事も>

お年寄りの方々は日本の統治時代を懐かしく思い出しては、日本語で話しかけて来てくれます。日本統治時代に台湾のダム建設と水利事業に尽力を尽くした八田與一は今でも台湾の教科書に取り上げられていて、台南市では毎年八田の功績を祝う式典が続けられています。最近、地元の住民がずっと守って来た八田の像が親中派の議員に破壊されると言う事件が起こりましたが、その事に多くの台湾人が心を痛め、像はすぐに再建されたそうです。

<台南市に設置されている八田與一の像と破壊された直後の写真>

そのような最も身近な愛すべき国と正式な国交がないと言う事に、正直なところ僕は違和感を覚えます。もちろん、台湾と中国が戦争をして分離することを望んでいる訳ではありません。しかし、台湾は台湾であり、中国の一部では決してありません。もし中国が本気で台湾に侵攻しようとした場合、本当に日本は黙って見ていることしか出来ないのでしょうか。もちろん憲法9条がある限り、日本に出来ることは何もありません。ですが、そう言った事態にならないように、何か日本に出来ることはないのか、日本人はもっと自らの親友の力になるべきではないのか、いつもそのような考えが頭をよぎります。現在の中国の国家主席である習近平は台湾統一に並々ならぬ執着心があると言われており、在職中に何らかの行動に出る可能性は否定出来ません。

そして2019年に入り、状況はまた変わりつつあります。2019年1月2日、中国の国家主席である習近平は次のような演説を行いました。「中台統一に関して、中国は武力による統一を否定しない」と。

このような強硬な発言が行われた背景には中国と台湾の関係だけではなく、世界の様々な要素が複雑に影響を与えています。特に米国と中国の間で収束する気配のない貿易戦争、そして中国国内、特に中国共産党内部における権力争いと言う国内政治の問題がその大きな原因となっています。

米国と中国の間で起こっている貿易戦争は、もちろんただの経済問題ではありません。そこには世界で最重要となる核心技術の保護を米国が強めその流出を防ぐと同時に、世界の情報技術、そしてその先にある経済と軍事の主導権は中国へは渡さないと言う明確な目的と、米国の世界のリーダーとしてのポジションとそれにより生じている利益を中国が脅かすことを抑え込み、中国のこれ以上の影響力の拡大はこの時点で潰すと言う超大国同士の「覇権争い」が背景にあるのです。武力衝突が無いにせよこの状況はかつての米ソ冷戦と同じ、21世紀における米中冷戦と呼べるもので、米中はアジアだけでなく欧州やその他の地域でも激しくその影響力を争っており、この米中冷戦には今後、世界のほとんどの国が巻き込まれることとなるでしょう。

しかし米中間のみにおける貿易摩擦に限って見れば、すでにその勝敗はついています。両国とも貿易摩擦によりその経済にマイナスの影響が出ているもののその深刻さについては中国のダメージが圧倒的に大きなものであり、既に中国経済の急激な減速が様々なところに現れています。中国の経済成長の要であった不動産バブルはマイナスに転じ、上海の不動産価格に至っては25%ものマイナスとなっている場所もあります。国内消費についても減速が明確になって来ており、世界の高額なブランド製品の30%を購入していた中国の消費者が購入を控え始めた結果、イタリアの某有名ブランドの株価が香港証券取引所において暴落する結果となりました。このような想像よりも遥かに大きかった中国経済へのダメージは国内政治にも確実に影響を与えており、共産党の内部からはすでに「アメリカに喧嘩を売るのはまだ早すぎた」と言う不満の声も出始めていて、共産党主席の任期を撤廃して終身的な独裁者としてのポジションを確立しかけていた習近平は、その国内政治において苦しい立場に置かれつつあります。こうした複合的な世界の状況から生まれてしまったのが「台湾を武力を使ってでも統一する」と言う強硬な発言です。それは国内に向けた自らの求心力を高めるためのパフォーマンスの側面に留まらず、このまま国家主席としてのポジションが脅かされる事になれば、国内に生じている不満の矛先を逸らすと同時に自らの業績を確立すべく、本当に武力行使に踏み切ると言う可能性は一段と高くなっています。台湾のその意思に関わらず世界の覇権争いと中国の国内政治問題により戦争の危険が生じつつあることは、台湾にとってみれば悲劇以外の何者でもありません。

こうした状況において、台湾の国内世論も真っ二つに分かれてしまっています。経済でもはや密接に結びついている中国との関係は改善すべきだと言う経済的な立場と、台湾が築き上げた民主主義を何としても守り中国とは政治的な距離を置くべきだと言う意見がぶつかり合い、台湾も今、その将来への運命の分かれ道に置かれています。2020年にはその運命を決定するであろう台湾総統選挙が控えており、この選挙で台湾の市民はその政治的独立性を維持するか、中国との接近を受け入れるかの二択を迫られることになります。独立性向の強い民進党が勝てば経済への悪影響と武力衝突の危険性が高まり、中国寄りの立場を取る国民党が勝てば、中国政府の提案した香港と同じ「一国二制度」を将来的に受け入れることになるでしょう。どちらの結果となっても頭が痛くなるような運命の分かれ道ですが、香港での「一国二制度」がただの建前と化して事実上は完全なる中国の一部となっているのが現実である以上、それを受け入れる事は台湾が民主主義を捨てて中国と一体化すると言うことに他なりません。この「一国二制度」を受け入れた瞬間に台湾は第2の香港となり、おそらく香港と同じような悲劇的な未来を迎えることになるでしょう(詳細は別記事:「いま香港で起こっていること」をお読みください)。この台湾世論における覇権争いにも米中は当然影響力を強めようとしており、米国は台湾への武器販売を拡大し近海への米軍派遣を日常化させる一方で、中国は戦闘機や軍艦による威嚇を繰り返しながら台湾国内のメディアや財界に経済的圧力を行使して世論のコントロールを裏から図っていると言われています。米中と言う大国の都合に翻弄される形で、台湾はその運命を半ば強制的に選ばざるを得ない状況であると言えます。しかしいずれを選ぶとしても今の台湾に民主主義が存在する限り、その運命を決めるのは他でもない台湾市民自身です。選ぶチャンスが残っていると言う意味では、台湾は香港よりは運が良かったと言えるかも知れません。

日本は、この世界の動きをただ眺めているだけで本当に良いのでしょうか。東日本大震災が起こった際、日本に最も多額の援助をしてくれた国は台湾だと言う事実を、日本の皆さんはどれだけの方が知っているでしょうか。その額は141億円にも上り、これは台湾の1世帯あたりで計算すると、実に1600円以上にもなります。皆さまが募金をする際に、1,000円と言う金額を募金された事はありますか?僕は恥ずかしながら、いつもせいぜい100円が限度です(台南地震の時だけはお礼の気持ちを込め1,000円を募金しました)。 つまり台湾人のほとんどの人が、日本に非常に多額の支援をしてくれたはずです。台湾の人口は約2400万人、これは韓国の半分、アメリカの13分の1、中国の60分の1の数字です。台湾の物価や賃金が日本より低いことを考慮すれば、これがどれだけの意味を持つか、お分かり頂けるかと思います。その台湾が世界一の援助をしてくれたにも関わらず、日本政府は公式に台湾にお礼を伝えることすら出来ませんでした。僕は日本人として、これは本当に恥ずかしく情けない限りです。

<台湾からの暖かい支援を忘れてはいけない>

1997年に香港が中国に返還されて以来、香港の中国化が止まりません。香港市民の自由と生活環境の質はどんどん悪化しており、チャイナマネーの安全な投資先として香港の不動産がどんどん値上がりし、香港市民は高額な家賃や狭い住環境に苦しみ、安全な生活物資を香港で買い占めて行く中国人のために必需品も不足し、テレビでは毎日のようにその日の大気汚染状況(中国大陸から流れて来る)が報道され、民主化を求めるデモが盛んに行われています。その香港市民の1人が、僕の台湾人の友人にこう言ったそうです。

「台湾は、香港のようにはならないで」

<2003年と2017年の香港の写真。大気汚染が悪化したのが良く分かる>

日本は先進国の一員として、また世界で3番目の大国として、世界で果たすべき義務があるはずだと僕は思います。「自分の国さえ良ければそれで良い」では許されないはずです。それはもちろん、戦争に参加すべきだと言う意味では決してありません。しかし少なくとも、台湾のために出来ることは何かないのでしょうか。民間レベル、経済レベルでの協力や結びつきを強化して、台湾が中国に飲み込まれないように果たすべき義務があるはずです。それは台湾との友情や親日的な人々を守ると言った道徳的な側面のみならず、経済や国防と言った現実的な日本の国益にも多大に関わることです。

台湾と言う日本を最も愛してくれている国について、日本がもっとも大切にすべき隣国について、皆さまにも少しでも考える時間を取って頂けたら、そして些細な事でも、例えわずかであっても何かを実行に移して頂けましたら幸いです。台湾がいつまでも今の暖かい台湾のままでいられる事、日本と重要な価値観を共有する最も大切なパートナーのままでいられる事を、切に願うばかりです。

※ 英会話SSEAが『みんなの英語ひろば』の取材を受け、特集記事が掲載されました。ぜひご覧ください!

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