北欧は本当に「豊か」なのか

皆さまが「北欧」と聞いて連想するのは恐らく、「生活が豊かだ」「福祉が充実」「学力が高い」「洗練されたデザイン」と言ったポジティブなイメージだと思います。それに比べて日本は仕事は忙しいし、待機児童は多いし、ゆとり教育でレベルが落ちて…とネガティブに感じられるかも知れません。

では、本当にこのイメージは正しいと言えるのでしょうか。僕が客観的に考える限り、この対照的なイメージはマスコミが意図的に誇張した偏ったものと言わざるを得ません。僕は決して右翼や愛国主義者ではありませんが、客観的な視点を日本の人々が正しく持つ必要があると思いますので、あえて事実関係をここで考えてみたいと思います。また、始めに北欧に嫌悪感を持っているのでは無いことも予めお断りしておきます。

まず目につくのは豊かさの指標として最も一般的な「国民1人あたりの名目GDP」ですが、その数字は以下のようになっています。

<2017年の世界のGDPランキング(1人あたり)>

1.ルクセンブルク 105,863ドル

2.スイス     80,637ドル

3.マカオ     77,111ドル

4.ノルウェー     75,389ドル

<中略>

8.アメリカ合衆国  59,792ドル

9.シンガポール   57,713ドル

10.デンマーク    56,631ドル

12.スウェーデン   52,925ドル

16.香港       46,080ドル

17.フィンランド   45,927ドル

25.日本       38,449ドル

このランキングを見てショックを受ける方は少なくないはずです。かつて世界一にもなった日本の1人あたりのGDPは今や25位、北欧はおろかシンガポールや香港にも及ばない…とマトモに考えては実はいけません。確かに国家と言う単位で括ればこのようになりますが、そもそも人口や地理などの条件が全く異なります。人口の少ない場所や都市国家は1人あたりのGDPが大きくなるのは当然です。これを単純に比較しては、実態を見誤ります。上記の国の人口を大きい順に見れば、

参考:EU         約5億人

アメリカ       約3億5千万人

日本         約1億2千万人

参考:東京都市圏    約4000万人

参考:北欧総人口    約2700万人

参考:東京都      約1400万人

参考:東京23区     921万人

スウェーデン      910万人

スイス         842万人

香港          740万人

シンガポール      561万人

デンマーク       540万人

フィンランド      530万人

ノルウェー       470万人

マカオ           62万人

ルクセンブルク       59万人

参考:東京都心3区    45万人

北欧を全て合わせてもその規模は東京都市圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)よりも遥かに小さいものであり、同じ人口規模で比較するなら北欧の国は東京23区でようやく比較対象となるべきものです。ヨーロッパの一部の豊かな部分だけを切り取って「豊かだ」と断定するのは、東京23区のみを見て「豊かだ」と言っている事と同じです。日本全体として比較するべき対象はアメリカ合衆国やEUと言った単位であり、そうした基準で考えれば豊かさの指標は全く異なるものになります。マカオやルクセンブルクの規模は都心3区(千代田・中央・港区)と比較するようなものです。逆に考えると、人口が3億5千万のアメリカのGDPが6万ドルに迫ると言うのは想像を絶する事と言えます。これがアメリカが世界の頂点たる確固たる理由です。

この「基準を合わせた」豊かさの比較を1人あたりのGDPで行ってみると、以下のようになります。

アメリカ合衆国  55,805ドル

日本       32,485ドル

EU         31,968ドル

(以上2015年基準)

東京23区     76,900ドル

ノルウェー    75,389ドル

シンガポール   57,713ドル

デンマーク    56,631ドル

スウェーデン   52,925ドル

香港       46,080ドル

フィンランド   45,927ドル

(以上2017年基準。東京23区は総生産85兆円÷921万人 1ドル120円)

「豊かな場所だけを切り取る」と言う数字の比較がいかに参考にならないものかが、お分かり頂けるかと思います。日本から東京23区だけを切り取った場合、その「豊かな場所だけなら」世界では未だにトップクラスに豊かだと言うことになります。大きな括りで考えるなら、EUは日本を下回っているとも言えるはずです。またシンガポールなどは、あくまで「東南アジアの金融センター」であるから豊かなのであり、大きな括りにするためには周辺の東南アジア諸国を含めて比較するのが正しい比較対象です。そうして考えた場合、東南アジアにおける貧富の格差は日本の東京と地方の格差とは比較にならないほど大きなものです。EUにおける格差も日本より遥かに大きいと言えるでしょう。それはデモの多発や政情不安、頻発するテロや高い失業率を見ても明らかなことです。EU全体での失業率はすでに9%にも達しています。「労働者が足りない」と騒ぎになっている日本と、どちらが幸せと言えるでしょうか。

また、これらはあくまでも数字の上だけでの比較です。他の要素を勘案すれば、北欧が必ずしも豊かとは言えない理由はたくさん存在します。

例えば、皆さまは「北欧の大企業」を聞かれたら、どれだけ挙げることができるでしょうか。ノキア、エリクソン、ボルボ、サーブ、レゴ、イケア、スポティファイ…このくらいではないでしょうか。これはアメリカや日本はもちろん、ドイツ1国と比べても圧倒的に劣勢であり、学力が高いはずの北欧にはそれを受け入れるだけの環境が存在しないと言うことになります。学力が高いのに競争力のある企業が育たない、これは非常に矛盾していると思いませんか?これには北欧諸国が福祉の充実に注力し過ぎてしまった弊害が関係しています。

北欧の国での福祉が充実しているのは、紛れもない事実です。医療費、年金、社会保障と、人々は安定した裕福な福祉の恩恵を確実に受けており、これが一見すると「暮らしやすい」ように見える理由の一つです。しかし一方で、その福祉を維持するための税率は北欧では圧倒的に高くなっています。日本の消費税に相当する標準税率は22%から25%と、何をするにも税金で飛んで行ってしまいます。また産業の脆弱さから公務員比率が高くなっており、大半の国で公務員比率が30%を超えています。公務員の無駄な仕事が叫ばれる日本の比率が9%程度である事を見ても、これがいかに異常な数値かがお分かり頂けるかと思います。一体どうしてこれで豊かな国が成り立つのか不思議に感じられるかも知れませんが、その秘密は油田や鉄鉱石などの資源にあります。つまり経済は完全に資源依存で成り立っているのであり、これはアラブの産油国と何ら異なるものではありません。日本にはほとんど資源がないにも関わらずこれだけの経済力を知恵と勤勉で生み出している、これは逆に誇るべきことだと僕は考えます。

北欧の「豊かさ」とは、豊富な資源を背景に国民が高い税金を支払う事で全員が恩恵を受けましょう、そのような前提で成り立っているものです。国民がみな似たような水準で福祉を受けられる一方で、高水準の最低所得が国で定められているため製造業では国際的なコスト競争力が失われました。その結果残る仕事は研究開発を除けばドライバーやウエイターのような単純労働のみ。税率は高く、物価も高い。その代償として教育や医療が無料であると言う福祉が成り立っています。つまり「みんなでほどほどに幸せに暮らしましょう、大きな夢を見ることは出来ませんが」、そのようなものです。また働き口のない移民でも高い失業手当がもらえる事から無職の失業者が増加した結果、外国人への差別意識が非常に高くなっています。こうした状況と平行して低い出生率と高齢化も進み、人口も増加していません。豊かなはずの国の人口がなぜ増えないのか、それは良く考えてみる必要のあることです。国全体がお金を持ちながらも排他的な「老人ホーム」となっているようなものです。

先日このような事件があったのを皆さまはニュースでご覧になったでしょうか。北欧のとある国のホテルに予約の前日にチェックインしようとした中国人観光客が宿泊を断られ、ロビーで寝泊りしようとしたところを警察につまみ出されました。もちろん原因は中国人観光客のマナー違反であったのは疑いもありませんが、それを国のテレビ局が馬鹿にして番組を制作し、「中国人観光客の皆さまを歓迎致します。ただし、散歩をしている犬は食べ物ではありませんので食べないように(笑)また用を足す時はトイレに行く必要があるんですよ(笑)」と言う侮辱的な内容が放送され、国際問題にまで発展しました。もし日本のNHKがこのような番組を放送したら、皆さまは恥ずかしいと思いませんか?例え中国人観光客のマナーに怒りを覚えたとしても、人としての品位は守って然るべきもののはずです。この国では外国人への差別意識がこれだけ高いものであり、国民の民度は残念ながらこのように低いものだと言わざるを得ません。

さて、皆さまは日本の未来に何を望むでしょうか。北欧のように「排他的に小さくまとまる幸せ」なのか、「勤勉や努力、挑戦や多様性が認められる幸せ」か。僕は日本の未来は後者であって欲しいと願うばかりです。繰り返しになりますが、僕は愛国主義者ではありません。北欧を嫌悪する感情も一切ありません。それぞれの国にはそれぞれの考え方があって当然です。ただ、自分の生まれ育った国がより良くなって欲しいと言うことを、当たり前に願っているだけです。多様な人々がお互いを尊重する社会、私たちのスクールはその実現を目指しています。

“Hope we can respect the diligence, effort, challenge and diversity, to make our country grow up.”

※ 英会話SSEAが『みんなの英語ひろば』の取材を受け、特集記事が掲載されました。ぜひご覧ください!

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